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 アール・ヌーヴォーが流麗な曲線への偏愛だとすれば、アール・デコは、切れぎれの直線、ジグザグへの偏愛とでもいえるだろうか。
 1925年のパリ万博で命名され、29年のウォール街の大暴落で姿を消したとされる、この様式は、美術史の中ではあまりにも短命だ。
 けれど、そのスタイルは、いまもって生きつづけている。その生命力は、美術史においては通俗とされるものの中でこそ、際立っている。それを代表するのが、ニューヨークを象徴する摩天楼たちだ。
 47階建てのシンガー・ビルディング。60階建てのウールワース・ビルディング。77階建てのクライスラー・ビルディング。そして、マンハッタンの中央にそびえる、102階建てのエンパイア・ステート・ビルディング。
 頂上のTVアンテナまでの高さは、448メートル、このアンテナの高さだけでも67.6メートル、23階分の高さを持つ。  このエンパイア・ステートが建てられたのは、1931年5月1日。日曜祝日も休まず1日延べ2,500人から4,000人が働き、1年と45日の突貫工事で完成。それは、激動のローリング・トゥエンティから現代につづくアメリカ式生活様式の確率した30年代への移行期、大不況の嵐の中での工事だった。
 キング・コングがよじ登り、スーパーマンがひとっ飛び、ジーン・ケリーとフランク・シナトラが展望台から5番街まで踊りつづけ、シャルル・ボワイエとアイリーン・ダン、あるいはケリー・グラントとデボラ・カーが再会を約束したエンパイア・ステート・ビル
 巨大な、アール・デコである。



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